衆議院の議員定数削減をめぐって自民党と日本維新の会は5日、1割を目標に議員定数を削減する法案を国会に提出した。この法案の施行後、1年以内に結論を出せない場合、自動的に小選挙区で25、比例代表で20の合わせて45の議員定数を削減するという異例の規定を盛り込んでいる。
これに対し、野党側は「与党だけで期限を決め、数も決めて、ダメだったら自動削減というのは極めて乱暴。民主主義を否定するやり方だ」として強く反発しており、会期末まで2週間を切る中で、法案が成立するかどうか不透明な情勢だ。
議員定数の削減は、民主主義の根本に関わる問題だけに、今回の法案をどのようにみたらいいのか、今の臨時国会で法案の成否はどのようになるのか探ってみたい。
自動削減を盛り込んだ異例の法案
最初に、自民党と日本維新の会が5日に提出した法案について、おさらいをしておきたい。維新の吉村代表が高市政権と連立を組むのに当たって「絶対条件」として挙げたのが「衆議院議員定数の削減」で、連立政権樹立の合意書に「臨時国会に法案を提出し、成立を目指す」ことが盛り込まれた。
この連立合意を受けて法案が提出されたもので、法案では「衆議院議員の定数(465)の1割削減を目標に与野党で協議し、法制上の措置を1年以内に講じること」としている。そして結論が出なかった場合、小選挙区で25、比例代表で20の合わせて45の定数を削減することが自動的に決まることしている。
このようにこの法案は、与野党の意見がまとまらなかった場合でも、自動的に定数の削減と数値が決められているという極めて異例な内容になっている。
野党側は猛反発しており、「あまりにも乱暴で、民主主義の手続きを否定するやり方だ」「法案には、選挙制度改革をどうするかといった中身が何もない」などと厳しく批判している。
小選挙区の削減対象、20都道府県も
自民・維新の議員定数削減に伴って、削減対象となる都道府県などをまとめた自民党の試算も明らかになった。
小選挙区で削減になるのは、東京都が3減になるのをはじめ、大阪府、千葉県、神奈川県がそれぞれ2減。北海道、秋田、群馬、岐阜、香川、福岡、沖縄などの県がそれぞれ1減になるなど合わせて20都道府県が対象になっている。
この試算は、2020年の国勢調査の結果を踏まえ、人口の変動を選挙区の定数に反映しやすい「アダムズ方式」に基づいて算出されている。削減案は、来年に結果が出る2025年の国勢調査を基に行うことから、試算と実際の削減対象が異なる可能性がある。
今回の削減案では、東京や大阪など大都市で定数が削減されているが、秋田、富山、香川の各県では小選挙区が2つまで減る。最多の東京都(現行30、削減後は27)と比べると、現行は定数3なので10倍、削減後は13.5倍に格差が拡大する。
つまり、有権者にとって1票の格差は広がらないものの、地域に配分される議員・選挙区の地域間格差は拡大する。地方の声は、国政に届きにくくなるのというのは事実だ。重く受け止める必要がある。
過去30年の比較でも大規模な削減案
衆議院の定数削減は、これまで何度も議論が続いてきたテーマだ。細川連立政権当時の1994年の政治改革で、中選挙区から小選挙区比例代表並立制に移行した時に定数が、512から500に12削減された。
その後、自自公連立の小渕政権当時の2000年に比例代表が20削減されて480になった。2013年には「0増5減」で小選挙区が5減、2017年には小選挙区6減・比例4減で、今の465に至っている。
このようにざっと30年かけて47議席を漸進的に削減してきた。小渕政権当時、自民・自由連立時に比例を50削減で合意したこともあったが、実現したのは自自公連立時で、20議席にまで規模が縮小した。それだけ定数削減は難題であることがわかる。
今回の案は1年で一気に45もの削減だから大幅で大胆、急進的な削減案とも言える。歴史を振り返ると、果たして実現できるのか疑問というのが率直な印象だ。
維新の案は当初、比例だけで45削減と伝えられてきたが、最終的に比例と小選挙区の組み合わせになった。削減方法が変わった理由や、検討してきた選挙制度などについても詳しく説明してもらいたい。
一方、自民党も党内論議がほとんどなされないまま、高市総裁と維新幹部のトップダウンで決まった印象を受ける。党内合意は最後まで大丈夫なのか、こちらも疑問と言わざるを得ない。
定数削減法案の成立は?難題が続々
それでは今の臨時国会で、定数削減法案は成立するのだろうか。冒頭に触れたように野党側が強く反発しており、今後の審議日程ははっきりしない。成立への道筋は不透明だ。
野党側が反発しているのは、特に中小政党や新興政党にとって定数削減は党の存亡に直結する重大事だからだ。中小政党は比例代表で議席を得るところが大きいので、定数削減を受け入れるのは難しい。
加えて、自民・維新も含めた各党は、衆院議長の下に設けられた協議会で、選挙制度を含めた政治改革のあり方を検討している最中で、来年春頃には具体的な結論を出せるよう協議を続けている。
その矢先に特定の政党、しかも政権与党が独自案を掲げ、年内に成立させるというのだから、野党が猛反発するのもわかる気がする。
さらに国会運営面では、懸案の政治資金問題である企業・団体献金の受け皿を限定する法案を、国民民主党と公明党が共同で提出し、既に特別委員会で審議が始まっている段階だ。
与党の定数削減法案も同じ特別委員会で審議するため、法案審議の順番が問題になる。しかも今の国会の会期末は17日で、残り2週間を切った。8日からは補正予算案の審議が始まり、成立は会期末ギリギリになる見通しだ。
国民としては、物価高対策などを盛り込んだ補正予算案の成立が最優先で、その次に優先するとすれば、政治とカネの不祥事が相次ぐので、政治資金の法案を急ぐべきだと考える人が多いのではないか。
高市首相は「そんなことより定数削減をやりましょうよ」と先の党首討論で呼びかけたが、法案の優先順位をのべたものではないと釈明した。会期を延長して両方の法案の成立をめざすのか、新年度予算編成とも重なるので会期延長なし・継続審議とするのか、判断を迫られる。
さらに定数削減問題は、維新が連立参加の「絶対条件」と位置づけている問題だけに高市首相としては、連立維持の観点からの判断も必要だろう。
高市首相は補正予算案、定数削減法案、企業・団体献金受け皿限定法案の扱いと会期延長問題について、最終的にどのように決断するのだろうか。今後の政権運営にも影響を及ぼすので、高市首相の判断を注視していきたい。(了)
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